■林之助の著述等

林之助は、ランの栽培の中でも、とくにカトレヤの栽培に関する啓蒙文を多く著しています。戦後すぐに設立された日本洋蘭農業協同組合(JOGA)の組合報への寄稿もその1つです。メニューに掲げたインタビュー再掲も啓蒙文の1つですが、その他のいくつかを紹介します。

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蘭業組合報5~36号 日本洋蘭農業協同組合発行 1950(昭和25)年11月~1953(昭和28)年10-11月

夜話と実生1~20

 林之助は、初期の組合報に、およそ8年間で、31編の記事を精力的に寄稿しています。蘭の肥料について1~2、夜話と実生1~20、銘花三題、逗子初見聞1~4、我流カトレヤ作り1~4と連載物中心です。その中でも、「夜話と実生」は連載20回に及ぶ大部で、交配の親木についての考察です。連載開始にあたってのプロローグに、次のように記しています。
「どんな事業、道楽にしても希望、慰安はつきものである。
 時に愛蘭家は希望、理想と云ふ夢を追って、そのつきるころを知らない。内心では一日も早く大きくなってくれ早く花が見たいと念願して居るのであるが、結局植物に同化されて同歩調で進んで居る事を自分は気付かずに過ごして実に気が永くなって来るのも自然と思ふ何時までも満足と云ふ事を知らない。
 2、3人集まれば深夜に及ぶ事12時1時と話がはづむ、良くも話題があるものか。
    『燈りまで、つけて温室、何を見る』
 先ず此処まで来ぬと一人前の蘭作りとは云へないらしい。
 そんな馬鹿な事かと云ふ人も居るかも知れないがサンダーのハイブリッド・リストが証言して居る歴史は夜作られると云ふが現在まで作出された無数の品種は、虫で媒助された自然現象、採種目的での交配は別として、一品種の交配に幾多の人々は如何に悩み考え研究し、10年後の花を予想し乍ら慎重を期したであろうハイブリッド・リストも又夜作られるか、参考書の少ない日本では多くの意見が必要なのであろう大いに話し少なくても立派な品種を作出する事は戦時中の空白時代を補ふ上からも急務であり、永遠に必要であると信ずる。
 次に夜話の一端を記して交配の一助ともなれば幸甚です。併し深更に及び脱線の点もあるかも知れないが、これは生理現象だからお許し願ひたい。」
 蘭栽培者仲間との刻を忘れての議論の中で話題に上った交配の親木選択の留意点を、開花に成功した輸入株=代表的系統の開花結果(1~5)、受賞品種の交配親(6~17)、入賞した同一品種(18)、著名栽培家の保有する優秀母体例(19~20)と整理して披露しています。これから交配を目指す後進へのメッセージのようです。
 開花結果の記述の一例を紹介します。
「*1935年~1938年頃に輸入したカトレヤ類の実生を主として開花を見た結果より(色彩の表現は困難で御推察にまつ)
C Suavior系 (mendelii x intermedia var Aguinii)
(1) Lc Excellency(Lc Lustre Plumusax C Suavior Aguinae)
前後50株からの異株が輸入されて居り現に私の処丈でも20株近くの異株あり
A.ペダル一面にリップ同様の濃紅の色彩を□するもの 又□クサビ型にペダルの中央より両端に濃紅色に現はれるもの実に派手な一風変わった珍品である。Lustre系に似る。或る人曰くカトレヤの国宝級だと。
B.リップ丈Lustre式の色彩でペダル(p)セパル(s)淡紅色或いは殆ど白に現はれるもの
C.上梢バチ型を形成し大輪になるものあり(編集子注:□は判読不能)」


・蘭の作り方 日本蘭業組合編纂 1954(昭和29)年 第一園芸出版部 P278

「カトレヤ栽培の概念」P121~135

 戦後初の一般向け洋ラン栽培書です。巻末の執筆者紹介には、「中山林之助 日本蘭業組合員、戦前台湾に於ける洋蘭栽培の先覚者、現在も実生新種の作出に努めている」とあります。15名の執筆者のうち、8名が日本蘭業組合員です。そのうち、平の組合員は林之助ともう1名だけです、栽培実践家としての林之助の実績でしょう。再掲した「結末」のラン栽培初心者への応援メッセージの洒脱には驚かされます。なお、執筆者の中には、インタビュー再掲の中の「無菌培養との出会い」で紹介されている土屋格先生の名前も見えます。


結末(再掲)

 以上栽培の要点のみ簡単に述べて見たが、一般に蘭作りは大変厄介でむずかしいもののようにのみ思われているが、鉢物作りとしては、実に容易で永久の寿命ある植物ではあり、まったく楽しみなものである。「百聞は一見にしかず」の諺の如く、栽培者の温室をたぴたび見学することが一番早道である。
 愛蘭家は往々にして話し好き、天狗の連中が多いから、手軽な菓子箱でも下げて行けぱお茶も出るであろうし、さんざん説明も聞かされ、時には株の一鉢も頂けることもあろうから遠慮なく出掛けろことである。
 但し必らず下手に出るように充分心得置くべきこと、たとへ先方が下駄ぱきであろうと。



・総合種苗ガイド5洋ラン編 ガーデンライフ別冊 1969(昭和44)年 誠文堂新光社 P302

「カトレヤ類」P41~100

 その名のとおり、洋ランの種苗のリストで構成されているガイドブックです。カトレヤ類の章は、林之助他2名の共同で執筆されていますが、その章の中の「カトレヤ系の一般的な作り方」という記事は、林之助の署名入りです。冒頭の解説も林之助の手になると推量されます(これらの内容は、上記の「蘭の作り方/カトレヤ栽培の概念」と酷似しています)。

ブラソレリオカトレヤ(Blc.)の項には、林之助の交配した登録種R.Nakayamaも下記のようにリストアップされている。
アール・ナカヤマ R.Nakayama
 Bc.Cliftonii×Lc.Corisande 1952年登録。中山林之助氏作出による。平均して良い花が咲き個々の差は表現困難である。氏が変種名を名付けた株は一応水準以上といえる。強健な、趣味兼切花向実用種。代表して'連島’を記述し、他は変種名を列記するにとどめる。
 '連島’R.Nakayama'Tsurajima' AM/JOS
 S,P共淡桃色で幅広隙なし、Pの先端に小さな紅紫のぼかし、やや厚肉、Lは濃紅紫ビロード色、周縁淡桃色、喉前左右鮮黄、色彩対照欲良く、整型。
 AM/JOS受賞は上記の他、'甲南''Konan'、'マンモス''Monmoth'、'奥津''Okutsu'がある。その他'博多''Hakata'、'淳子''Junko'、'三朝''Misasa'、'高松''Takamatsu'その他多数ある。


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